東京高等裁判所 平成元年(行ケ)108号 判決 1990年5月24日
東京都渋谷区幡ケ谷二丁目四三番二号
原告
オリンパス光学工業株式会社
右代表者代表取締役
下山敏郎
右訴訟代理人弁理士
古川和夫
東京都千代田区霞が関三丁目四番三号
被告
特許庁長官 吉田文毅
右指定代理人
服部平八
同
岩畸和夫
同
今井健
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
「特許庁が昭和六一年審判第二三一五九号事件について平成元年三月一六日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告
主文同旨の判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
出願人 原告
出願日 昭和五四年三月一四日(同年特許願第二九五二六号)
本願発明の名称 「自動分析機」
拒絶査定 昭和六一年九月一八日
審判請求 昭和六一年一二月四日(同年審判第二三一五九号事件)
審判請求不成立審決 平成元年三月一六日
二 本願発明の要旨
(a)複数の試料容器より成る試料容器列を試料吸引位置を経て移送する試料容器移送手段と、試料と試薬とを反応させるための複数の反応容器を移送する反応容器移送手段と、前記試料吸引位置にある試料容器から試料を吸引して前記反応容器へ分注する試料分注手段と、複数の試薬を保持し、その中の測定に必要な試薬を吸引して前記反応容器へ分注する試薬分注結果手段と前記試料と前記試薬との反応結果を測定する光度計と、この光度計からの測定値またはこの測定値から計算した計算値をあらかじめ設定した値と比較する比較装置と、前記比較装置からの信号に基づいて前記設定値の範囲外である異常値を示した試料を収容する試料容器を前記試料吸引位置へ移送した後、当該試料を反応容器へ分注するように前記試料容器移送手段、前記試料分注手段、前記試薬分注手段とを制御する制御手段とを有する自動分析機において、(b)異常値を示した試料を自動的に再測定するために、当該試料の分注量又は当該試料の測定に使用された試薬の分注量を前回の測定時とは相違させることを特徴とする(c)自動分析機(別紙図面(一)参照)。(なお、(a)、(b)、(c)は説明の便宜のため当裁判所において付記したもので、以下、各構成要件を「(a)構成」、「(b)構成」、「(c)構成」ともいう。)
三 審決の理由の要点
1 本願発明の要旨
前項記載のとおり(特許請求の範囲の記載に同じ。)。
2 引用例の記載
(一) 特開昭四九-一二三六九三号公報(以下「第一引用例」という。)
(1) <1>液体供給装置と、<2>液体試料に化学処理作を行う反応装置と、<3>反応装置において化学処理操作を施された液体試料中の目的成分を定量的に測定するための測定装置と、<4>測定結果を記録する装置と、<5>前記測定結果が定量限界を越えたことを検知する比較装置と、<6>定量限界を越えるに至つた原液体試料を試料吸引位置へ再移送した後、該試料を反応容器へ分注するように移送する試料容器移送手段と、<7>前記試料容器移送手段、試料分注手段および試薬を前記再移送された試料を含む反応容器に分注する手段とを制御するための制御手段を有する自動分析装置(別紙図面(二)参照)。
(2) なお、ここで前記再移送試料を含む反応容器に分注するのを制御する手段について、同引用例の具体例では希釈液の制御手段として表示されているが、希釈液も試料用の試薬として通常用いられているものであり、かつ本願発明の明細書においても試薬に希釈液も包摂せしめているところから、前記のとおり記載されている手段とした。
(二) 特開昭五四-五七九〇号公報(昭和五四年一月一七日公開、以下「第二引用例」という。)
単一の反応チヤンネルによつて複数項目を連続して測定するシングルチヤンネルマルチアイテムシステムの自動分析機において、(イ)透光性の複数の試料容器より成る試料容器列を試料吸引位置を経て移送する試料容器移送手段と、(ロ)試料と試薬とを反応させるための複数の反応容器を移送する反応容器移送手段と、(ハ)前記試料吸引位置にある試料容器から試料を吸引して前記反応容器へ分注する試料分注手段と、(二)複数の試薬を保持し、その中の測定に必要な試薬を吸引して前記反応容器へ分注する試薬分注結果手段と、(ホ)前記試料と試薬との反応結果を測定する光度計とを備えたシングルチヤンネル多項目自動分析装置(別紙図面(三)参照)。
3 本願発明と第一引用例記載の発明との対比
両者は<1>ないし<7>の各手段を備えた自動分析機である点で一致し、(1)本願発明が前項(2)の(イ)ないし(二)の各手段を備えているのに対し第一引用例記載の発明はかかる手段を備えていない点(以下「相違点(1)」という。)、(2)不願発明においては、異常値を示した試料を自動的に再測定するために、当該試料の分注量又は当該試料の測定に使用された試薬の分注量を前回の測定時とは相違させることとしている点(以下「相違点(2)」という。)で相違する。
4 相違点に対する判断
(一) 相違点(1)について
第一引用例には、機構系及び制御系を簡易化して多項目試料を測定するための手段について示すところがないが、かかる手段は第二引用例に手段(イ)ないし(二)として記載され不願出願前公知のものであるから、かかる第二引用例記載の手段を第一引用例の再測定手段に付加し本願発明を想到する程度のことは当業者が容易になし得たことと認める。そして、それにより奏する効果も不願発明の明細書の記載をみても第二引用例の記載から容易に予測し得る程度の効果であつて、格別の効果とはいえない。したがつて、相違点(1)は第一及び第二引用例に記載された技術から当業者が容易に想到し得たことといわなければならない。
(二) 相違(2)について
分注量を前回の測定値と相違させるとは、本願発明の明細書九頁一行ないし六行に「前記実施例では試料量及び試薬量の少なくとも一方を変更して希釈比を変えているが、これらの量を変更することなく水等の希釈液で希釈することも可能である。この場合、試料分注器3及び試薬分注器9にそれぞれ通じる注水器17及び18から注水する。」と記載され、試料を水等の希釈液で希釈することも包摂するものと認められる。しかして、第一引用例においても再測定試料を水で希釈して測定しているから、相違点(2)は単なる表現上の相違といわざるを得ない。したがつて、相違点(2)は第一引用例に実質的に記載されている事項と認める。
5 よつて、本願発明は第一、第二引用例記載の発明に基づいて容易になし得た発明と認められるから、特許法二九条二項の規定により特許を受けることができない。
四 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点1は認める。2の(一)(1)のうち、<1>ないし<6>は認める。<7>中、第一引用例の装置が再移送された試料(以下「再測定試料」という。)に試薬を分注する手段を制御するための手段を有するとの点は争い、その余は認める。同(2)のうち、第一引用例に再測定試料に希釈液を分注する手段を制御するための手段が表示されていることは認めるが、その余は争う。2の(二)は認める。3のうち、本願発明と第一引用例の装置が再測定試料に対する試薬分注手段の制御手段を備える点でも一致するとする点は争うが、その余は認める。4の(一)は認める。4の(二)のうち、本願発明の明細書に審決摘示のとおりの記載部分があること、第一引用例においては再測定試料を水で希釈して測定していることは認めるが、その余は争う。5は争う。審決は、次に述べるとおり、相違点(2)に対する認定判断を誤つた。
1 相違点(2)に対する審決の認定判断は、同相違点に係る本願発明の(b)構成の記載が第一引用例記載の装置にみられるような試料を水等の希釈液で希釈することを含むとする解釈を前提とするものであるが、右前提は誤りである。すなわち、本願発明の(b)構成の記載は、再測定の際に変更する測定条件を、異常な測定値を示した試料の分注量又は右試料の測定に使用された試薬の分注量のみに限定するものであり、このように解すべきことは、同構成の文言自体、「試料」「試薬」「希釈液」との用語は分析の分野では厳密に区別して用いられるのが一般であり、また、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項においても審決摘示(審決の理由の要点4(二)の記載都分にみられるように右各用語を明確に区別して用いていること等に徴しても明らかである。審決は右記載部分を(b)構成の一実施例を示すものと解しているようであるが、右記載部分は、当初、特許請求の範囲第1項に「前回と同一の測定条件または異なる測定条件により再測定を行う」と上位概念的記載をしたうえ、それに従属する第2項で(b)構成と同一の記載をしていたのを、その後(b)構成のみに特許請求の範囲の記載を限定する補正をなした出願経緯の中で、当然になされるべき補正がなされないまま残存してしまつたというのが実情であつて、右経緯からも明らかなように(b)構成の意義自体は当初から何ら変わつておらず、また、本願発明の明細書の記載を客観的にみても(b)構成が前記のような意味であることは明白である以上、審決摘示の右記載部分が残存しているからといつて、審決のいうように(b)構成が水等の希釈液で希釈した場合をも含むと解すべきではない。
2 そして、本願発明は、再測定条件の設定を(b)構成のように限定したことによつて、第一引用例記載の装置にみられるような希釈液を加える構成を採用する従来型の装置が必要とした希釈液収容のための容器や希釈液の分注装置及びこれらを制御する機構を省き、装置全体の大幅な小型化を可能にするという顕著な作用効果を奏し得たのである。また、本願出願後数年を経過した後の刊行物である甲第八号証(昭和六一年八月一日発行の「日本臨床検査自動化学会会誌通巻第四一号」六三頁)には「従来の希釈による高値再検から、機械的に検体量を減らし測定する再検についての自動化を検討する機会を得たので報告する。」との記載があるところ、右記載からも明らかなように、本願発明の関連する自動分析機の分野では、希釈による高値再検と検体量を減らし測定する再検((b)構成のうち試料の分注量を相違させる再検に相当する。)とは明確に異なる再検方式として取扱われている事実に照らしても、審決のように、(b)構成と希釈液を使用する第一引用例の構成を同一視することの不当性は明らかというべきである。
3 なお、本願発明の装置で用いる測定器は光度計であるが、光度計による測定は、いずれも水溶液である試料及び試薬を用い、試料中に含まれる溶質と試薬中に含まれる溶質とを反応、発色させることにより、その発色の程度を測定するものである。また、光度計による測定の際に試料と試薬との希釈比を変えるための方法として、試料量を変える、試薬量を変える、希釈液を加えるの三つの方法があること自体は従来周知である。
第三 請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一ないし三は認めるが、四は争う(ただし、四3は認める。)
二 被告の主張
1 原告は、分析の分野において、「試料」「試薬」「希釈液」との用語は厳密に区別して用いられている旨主張するところ、同分野において右のような用語が使用されることは否定しないが、これらの用語の意味は相対的なものにすぎず、必ずしも原告主張のように厳格に区別した用い方がなされているわけではない。その事情は本願発明の明細書においても同様であつて、「試薬の分注量」を調整用の水をも含む分注量の意味に用いているのは審決で指摘したとおりである。
2 また、希釈液とは「溶液において溶質の濃度を小さくする目的で添加する物質」(化学大辞典第二巻七二〇頁・乙第二号証)であつて、この概念に入るものはすべて希釈液と観念されるところ、右審決摘示の記載中の「試料量及び試薬量の少なくとも一方を変更して希釈比を変更している」との記載からして、そこでいう試薬量の変更が希釈比を変更するためのものであることは明らかであるから、右記載は、実質的には試薬を希釈液として用いることを意味しているものとみるのが合理的であり、他方、それに続く「これらの量を変更することなく水等の希釈液で希釈することも可能である」との記載は、水という希釈液の量を変えることにより希釈比を変えることを意味しているものであるから、結局、両者の間に本質的な差異は認められないというほかなく、その意味では、審決のように、水を試料調整用の試薬とみても何ら不合理はない。そして、第一引用例には試料に分注する水の量を変えて再測定する点の記載があるのであるから、(b)構成は実質的に第一引用例に記載されているものと解することができるものであつて、この点に関する審決の認定判断に何ら誤りはない。
第四 証拠関係
本件記録中の書証目録の記載を引用する。
理由
一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。
二 取消事由に対する判断
1 前記当事者間に争いのない本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二ないし第四号証(右各書証を、以下「本願明細書」と総称する。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、本願発明は光度計を用いて複数の試料を種々の測定項目で連続的に分析する自動分析機に関する発明であること、その構成は前記当事者間に争いのない本願発明の要旨のとおりであるが、構成上の特徴点は(b)構成にあり、これは要するに、異常な測定結果(異常高値又は異常低値)が出た場合の再測定に際し、異常な測定結果を示した試料の分注量又は該試料の測定に用いた試薬の分注量を前回の分注量と相違させるというものであること(なお、当然ながら、右のような測定条件の変更は自動的に行われるものであり、本願発明はそのための手段(試料又は試薬の分注量の制御手段等)を備える点をも要旨とするものである。)が認められる。
2 一方、第一引用例に審決摘示のとおりの記載(ただし、再測定試料に試薬を分注する手段を制御するための手段を有するとの点は除く。)があること、同引用例に再測定試料に希釈液を分注する手段を制御するための手段の記載があることは当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例記載の装置は、光度計等の測定器を用いて複数の試料を分析する自動分析機であつて、試料の濃度が測定装置の定量限界を超えた場合に当該試料の検出及び当該試料を定量可能の濃度範囲まで希釈することを自動的に行うことかできる装置(手段)を備えていること、同引用例には、右装置による希釈の具体例として自動的に抽出した再測定試料に蒸溜水等の希釈用液体を注入する例が示されていることが認められる。
3 審決は、本願発明の(b)構成に第一引用例記載の装置にみられるような試料を水等の希釈液で希釈することが包含されていることを前提としているものと解されるから、先ずこの点について検討するに、「試料」「試薬」「希釈液」との用語が分析の分野において厳密に区別して用いられているか否かはさて措き、これらの用語がそれぞれ固有の意味を有するものであることは成立に争いのない乙第一及び第二号証の各一ないし三に徴しても明らかなところであるし、また、本願明細書の審決摘示の記載部分(審決の理由の要点4(二)、なお、その内容が審決摘示のとおりであることは当事者間に争いがない。)中の「前記実施例では試料量及び試薬量の少なくとも一方を変更して希釈比を変えているが、これらの量を変更することなく水等の希釈液で希釈することも可能である。」との記載は、明らかに「試料」及び「試薬」と「希釈液」とを区別して使用しているものであり、他方、本願明細書には他にこれらの用語を区別しないで用いていることを示す記載も見当たらない以上、(b)構成における「…試料の分注量又は…試薬の分注量を前回の測定時とは相違させる」との記載は、その文字どおりに解するほかなく、右記載に希釈液を加えることが直接含まれていると解することは困難である。
したがつて、審決のように(b)構成に希釈液を加えることが含まれていると解することは相当とは認めがたい。
4 もつとも、右審決摘示の記載部分のみによる限りでは、一見、(b)構成が試料の分注量又は試薬の分注量の変更の他に希釈液を加える場合をも含むことを示しているように解される如くであるが、前示の事実に加えて、前掲甲第二号証によれば右審決摘示の記載部分に引き続いて「また、試料と試薬との希釈比を変更する以外に他のバラメーターを変えることも可能である。たとえば、反応時間、反応温度、NDフイルターによる光量を変えることもできる。」との記載があることが認められ、また、前掲甲第二ないし第四号証によれば、本願発明に関する特許請求の範囲の記載に関し原告主張(審決を取り消すべき事由1)のとおりの経緯があつたことが認められることをも参酌すれば、審決摘示の記載部分は(b)構成に関する審決の解釈を裏付けるものではない。
5 しかしながら、本願発明及び第一引用例の装置がいずれも測定器として光度計を用いるものであることは前記/、2に認定したとおりであり、光度計による測定は、いずれも水溶液である試料及び試薬を用い、試料中に含まれる溶質と試薬中に含まれる溶質とを反応、発色させることにより、その発色の程度を測定するものであることは当事者間に争いがない。そして、前記当事者間に争いのない本願明細書中の審決摘示の記載部分及び前掲甲第二ないし第四号証によれば、本願発明の(b)構成において試料又は試薬の分注量を前回の測定時と相違させる目的は、光度計による測定において異常な測定値が出る原因をなす試料と試薬との希釈比を前回の測定値と変更する(なお、前記2の認定事実をも参酌すれば、右のように試料と試薬の希釈比が異常値の発生に関係するのは、希釈比の如何によつては光度計の定量可能な濃度範囲を逸脱してしまうためであると推測される。)点にあることが認められるから、(b)構成が意味するところは、要するに、いずれも水溶液である試料又は試薬の量を調整することで試料と試薬との混合液の濃度を変更することにほかならず、そうであれば、第一引用例におけるように別途希釈液を加えることにより混合液の濃度を調整する方法との間に本質的な差異を認めがたい。しかも、光度計による測定の際に試料と試薬との希釈比を変えるための方法として、試料量を変える、試薬量を変える、希釈液を加えるの三つの方法があることが従来から周知であることも当事者間に争いがないのであるから、(b)構成は、たかだか、同一の目的を達成するために当業者が適宜選択し得る手段の中から一定の方法を選択、限定したものにすぎず、そうであれば、(b)構成は、第一実質的に同一であるか、少なくとも第一引用例記載の構成及び右周知の事項から極めて容易に推考し得たものといわざるを得ない(もつとも、厳密には、希釈とは濃度を薄める場合に用いられる方法であり、他方、(b)構成は濃度を高める点の構成も示しているものではあるが、濃度が低い場合にそれを髙めるために本願明細書(前掲甲第二ないし第四号証)記載のように試料量を増加するか試薬量を少なくする方法を採り得ることは極めて自明の事柄にすぎないから、この点の差異が右認定判断を左右するものではない。)。
なおこの点に関し、原告は、本願発明は、再測定条件を(b)構成のように限定したことによつて希釈液を加える構成を採用する従来型の装置に比して顕著な作用効果を奏した旨主張するが、本願明細書(前掲甲第二ないし第四号証)には右のように限定した場合が希釈液を加える場合と比らべてどのように優れているかについて何らの記載もなく、また、原告が具体的に指摘する装置の小型化の点も当業者が試料と試薬の希釈比を変更する手段を選択するに際し、当然に考慮する程度の事項にすぎないものというほかない。更に、原告は成立に争いのない甲第八号証の記載を援用することにより、本願発明の関連する自動分析機の分野では、希釈による高値再検と検体量を減らし測定する再検が明確に異なる再検方式として取扱われている旨主張しているが、原告指摘の記載から直ちに右主張のようにいえるか否か疑問であるし、その点を措いても、本願発明の構成に関する実質的同一ないし容易推考性の問題と、当業界(自動分析機の分野)で希釈による再検と検体量の減少による再検が別異の再検方式と考えられているか否かの問題は自ら別の問題であるから、仮に原告主張のような事実が認められるとしても、そのことは前記認定判断を何ら左右するものではない。また、自動分析機に係る発明である本願発明において再測定条件を(b)構成のように限定したことによる格別の作用効果が認められないこと前記のとおりである以上、本願発明が自動分析機である点が前記認定判断に影響を及ほすものでないこともまた明らかである。
6 以上のとおりであるから、審決はその結論において正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 舟橋定之 裁判官 小野洋一)
図面(一)
<省略>
図面(二)
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図面(三)
<省略>